繁桝とは?
福岡指折りの人気を誇る酒、繁桝
「繁桝(しげます)」は、福岡のお酒で最も知名度のある、銘柄じゃないでしょうか。
実際に私、友添健二も大好きなお酒で、友添本店に来るお客さんに商品をおススメする際、1番最初に手にする福岡の日本酒です。
「繁桝」を製造しているのは、福岡県八女市の高橋商店。
銘柄が有名すぎて、意外と高橋商店の名前を知らない人も多いんじゃないでしょうか。
喜多屋のすぐ近くにある蔵で、歴史は喜多屋よりも100年古く、なんと創業300年!
かつては「繁桝は男酒、喜多屋は女酒」と呼ばれていたそうです。
男酒、つまり辛口にこだわった日本酒をつくるのが、高橋商店の伝統です。
「福岡の日本酒で『辛口』と言えば、繁桝」
そう言われることが誇りだ、酒蔵で聞きました。
インターナショナル・ワインチャレンジ2013で世界一の日本酒の称号を取った喜多屋がどんどん八女の外に向けて攻め続けているイメージがある一方で、繁桝は地元重視の印象が強く、実際に八女の人たちにとても愛されています。
攻めに転じた300年の老舗
酒はすごぶるうまいけど、内向きなイメージがつきまとっていた「繁桝」ですが、今の高橋商店の社長と話していて、少し印象が変わりました。
江戸時代から300年続いている老舗蔵が、“攻め”始めている、と。
19代目の中川拓也社長は、トンネルを掘るゼネコン出身。
造り酒屋とは全く関係ない業界から転身された方です。
高橋商店の社長なのに、中川の名字というのは、高橋会長の娘婿だから。
膝を突き合わせて話して面白いなと思ったのが、中川社長が繁枡を疑っていることです。
「よそから来て、はじめに疑問に思ったのは、『繁桝の酒は他とはレベルが違う。麹づくりに長けているから』と、蔵のみんなが言っていたことです。
果たして、そうか?
これだけ科学技術が進んだ現代だから他の蔵もすぐに追いついて、同じレベルになってくるんじゃないか」と中川社長。
私も、繁桝はうまいと思います。
でも、酒屋を長年やっていますから、福岡でも、どんどんレベルアップしている酒蔵があるのを知っています。
中川社長も「繁桝だからとあぐらをかいていては、いつかは追いつかれる」との危機感があったようで、会長や常務に思いを次々とぶつけたそうです。
でも「いくら自分の考えを話しても、論破できなかったんです」と。
得意の麹づくりに繁枡の未来を懸ける
社長として、この先、繁桝をどう突出した存在にしていこうか。
消費者に繁枡と他の酒の違いをどうアピールしようか。
山田錦、雄町などの酒米を押してみるか、米をもって磨いてみるのか、もっと熟成させてみるか。
「ワインはその地方で収穫されたブドウにロマンを求めますが、それは鮮度が重要で持ち運びできないから。日本各地で入手できて、日持ちする酒米にロマンを求めても無理があると思ったのです。そもそも、酵母の違いや精米の違い、手法の違いが、各蔵の味の違いにつながっていますから。」
そう考えて、高橋商店は蔵の強みである原点に立ち返りました。
「『うちは麹づくりが他とは違う。手づくりでやっているから』と会長らが言うのなら、高橋商店の得意な麹づくりを追求してみよう」と。
2018年、新たに「麹室」をつくりました。
清潔さや取扱やすさからステンレスが主流となる中で、あえて、手間のかかる昔ながらの木製の麹室。
このご時世に、高価な投資です。
「今の時代になぜ木造かと言われるかもしれません。なぜか?ステンレスで麹をつくれば80点のの酒はできるけど、100点は取れないと考えたからです。科学が進んだ現代でも、麹のことはほとんど解明されてないんです。木製の麹室なら満点の可能性があると思い、残りの20点を追い求めることにしました。」
ステンレスだと洗い流されてしまう麹菌も、木製だと住み着く可能性があります。
その働きのすべては解明できてないけど、ときにホームラン級の酒が飛び出すことがあるかもしれません。
繁桝は麹の神秘性にロマンを感じ、突き詰めてみようと思ったのです。
ただ、そんな神秘性だけで木製麹室にしたわけではありません。
中川社長は力を込めて言います。
「ステンレスと比べて、木を清潔に保つには普段の清掃から大事で、神経をつかうので蔵人が育つと思ったのです。たとえ5~10年後の繁枡が他の酒と変わらない存在になったとしても、高橋商店の蔵人の感性は他の酒蔵とは違うレベルになれるのでは?」
さらに、高橋商店の蔵は今、着々と外に飛び出していく準備を進めていたのには驚きました。
実は国際的な食品の衛生管理に関する手法の「HACCP(ハサップ)」導入を進め、実は世界にも売って出られるような体制をつくっていたんです。
私、友添が蔵見学をするときに知りました。
帽子やマスク、白衣の着用が義務付けられていたんです。
これまで何度も高橋商店を訪れましたが、今回が初めてのことです。
ハサップ導入は、福岡の酒蔵でも先進事例だそうです。
「それは、繁枡も外でいっぱい売れたらいいですよ。何かと喜多屋さんと比べて内向きなイメージにとられがちですが、繁枡を応援してくれるのは、やっぱり地元の人たちなんです。東京に行っても、応援してくれるのは福岡の人。だから、地元を大切にするんです。地元八女でも、福岡全体でも『日本酒なら繁枡』という存在になった上で、どんどんと外に飛び出していけるんだと思います。その体制づくりだけは進めています」と、中川社長。
福岡生まれの福岡育ちの友添健二ですが、2019年、ことしの繁枡の新酒も、すこぶるうまかったです。